Hotel California

 「未夢、ちょっと来いよ」
 「な〜に、彷徨?」
 創立記念日で学校が休みの水曜日。朝食の後、彷徨はワンニャー達に見つからないように未夢を廊下に呼び出した。

 「ここだけの話なんだけど、オレ、ナンバーズで三万円当てたんだ」
 「え〜」
 「し〜っ、声がでかい」
 小声で話していた彷徨が慌てて未夢の口を手でふさいだ。
 「ゴメン。でも、うらやましいですなぁ〜」
 「ワンニャーには内緒だぞ」
 「えっ、何で?」
 「ちょっとな…」
 未夢は口から出かかった「彷徨さんはケチですなぁ〜」という言葉をあわてて飲み込んだ。
 「それで、あたしに何か用なの?」
 「………」
 「どうしたの?」
 顔を赤らめて口を閉ざしてしまった彷徨だったが、やがて意を決して口を開いた。
 「ホテル……行かないか?」
 「ホテル? 平尾ホテルのランチバイキングね。おいしいって評判なんだよねぇ。彷徨がおごってくれるなら行くよ」
 「違う、その……ラブホテルに…行かないか…」
 「ラブホテル……え〜っ」
 「だから、でかい声出すなって」
 「ゴメン。……彷徨、どうして……その……ホテルなんかに行きたいの? 三万円もあるんでしょ。ゲーム買うとか、CD買うとか…」
 「…一度行ってみたかったんだ。それに…」
 「それに?」
 「未夢だって……気にしないで…その……してみたいだろ」
 「えっ……」
 顔を真っ赤にしてうつむいてしまった未夢。いつもは、夜中にワンニャーやルゥが起きないように声を潜めながら行い、あるいは買い物に出かけたワンニャー達たちが戻ってくる時間を気にしながらあわただしく行うセックス。一緒に住んでいるから他のカップルよりは恵まれてるとはいえ、他シッターペットや他宇宙人を気にしながら行うセックスに彷徨は不満を持っていたのだ。
 「な、いいだろ」
 「……うん」
 未夢はしばらく考えた後、こくりと首を縦に振った。
 「じゃあ、昼飯食ったら行くからな」
 「分かった」

 「ワンニャー、ちょっと出かけてくるぞ」
 「ルゥくんのことお願いね」
 昼食の後、ちょっとおめかしをした二人が出かけようとした時である。
 「おや? お二人でお出かけですか。珍しいですねぇ」
 「そ、そうか」
 「怪しいですぅ〜。ひょっとしてお二人でおいしい物でも食べに行くのですかぁ〜」
 「違うの、ワンニャー。お買い物、お買い物に行くの」
 「そうですかぁ〜。何か隠し事していませんかぁ?」
 (ぎくっ)
 自ら「有能なシッターペット」と名乗るだけのことはある。ワンニャーは、二人が自分に隠し事をしていることに感づいたのだ。
 (まずいですなぁ〜。このままじゃ……そうだ)
 未夢の頭の中に珍しく名案が浮かび上がった。
 「ワンニャー、おみやげにみたらし団子買ってきて上げるね」
 「みたらし団子ですかぁ〜」
 さっきまで疑わしげに二人を見つめていたワンニャーの表情が一変した。やはり、みたらし団子の効果は絶大である。
 (うまくいきましたなぁ〜)
 「彷徨、そろそろ出かけようか」
 「そうだな、いってくるぞ。ワンニャー」
 「いってらっしゃ〜い。みたらし団子忘れないで下さいねぇ〜」
 

 「ここなの?」
 「……みたいだなぁ……」
 平尾町駅から電車に乗って15分の西御町駅を降りて歩いて10分。国道沿いにあるホテル・カリフォルニア。格好いい名前とは裏腹に外見はごく普通のビジネスホテルのようであった。
 「ドキドキしますなぁ〜」
 「あぁ、オレもだ」
 「誰も……いないよね」
 「いないな」
 周りを見回し、誰もいないことを確かめた二人はホテルの中にこそ〜りと入っていった。
 「たくさんあるな」
 「どの部屋にしようか?」
 部屋の写真が並んでいる無人のフロントの前で二人は悩んでいた。平日の午後なのでほとんどの部屋が空いていた。
 「彷徨が選んでよ」
 「未夢が選べよ」
 「彷徨がお金出すんだから彷徨が選んでよ」
 「そうか……、やっぱり未夢が選べよ」
 「え〜っ」
 「オレがお金出すんだからな。早くしろよ。他の人が来たら困るだろ」
 「そう……じゃあ、この部屋にするね」
 未夢が指さしたパネルの下にあるボタンを押した彷徨は出てきたをキーを手に取った。
 「行こうか」
 「うん」
 二人は手をつなぐとエレベーターに乗り、四階にある未夢が選んだ部屋へと向かった。

 「かわいい〜〜〜」
 二人が入った部屋はいかにも女の子が好みそうな部屋であった。部屋全体がピンク色でコーディネートされ、壁にはメルヘンチックな絵が飾られ、奥にあるベッドの上には大きな熊のぬいぐるみが座っていた。
 (何か落ち着かないなぁ。これなら自分で選んだ方がよかったかな)
 「うわ〜、ふかふかだよ〜」
 スヌ○ピーの絵のついたシーツに覆われたベッドに座り無邪気にはしゃぐ未夢。彷徨は隣に座ると未夢の身体をやさしく抱き寄せた。
 「未夢……」
 「ダメ、お風呂に入ってから」
 「えっ…」
 きょとんとした顔をした彷徨の腕の中から抜け出した未夢は立ち上がるとバスルームへと向かった。
 「お湯入れてくるね」

 「はぁ、テレビでも見てるか」
 軽くため息をついた彷徨は、一人寂しくピンク色のソファーに座るとテレビのリモコンを手に取った。

 「風呂はどうだった?」
 「うん、凄く……ちょっと、何見てるのよ〜」
 バスルームから戻ってきた未夢は彷徨がいわゆるエロビデオというやつを見ていることに気がづいた。
 「何だ、見たことないのか」
 「あ、当たり前でしょ」
 「興味あるんだろ」
 「もちろん興味しん……ちょっと何てこと言わせるのさぁ〜」
 「お湯が溜まるまでやることないんだろ。だったら一緒に見ようぜ」
 頬を赤く染めた未夢の手を取った彷徨は強引に未夢をソファーに座らせた。
  
 「凄いですなぁ〜」
 「そうだな…」
 「なぁ、天地に似てないか?」
 「うん、あたしもそう思ってた」
 二人が見つめる36インチの大きな画面には、ななみそっくりの女の子がバックから男に激しく突かれ、Fカップの巨大な乳房をプルプルと揺らして喘いでいた。
 (未夢もあれくらい、いや、あの半分でいいから胸があったらなぁ…)
 (うらやましいですなぁ〜。あたしもあの半分でいいから胸があったら…)
 
 「未夢……」
 「ピピピピピ」
 彷徨が未夢の肩に手を回そうとした瞬間、バスルームからお湯が一杯になったことを告げるアラームの音が鳴り響いた。
 「彷徨、先に入るね」
 (先にって、こんな時にしか一緒にお風呂入れないのに……)
 バスルームに入っていった未夢を見送った彷徨は、シャワーを使う音が聞こえると、着ているものをすべて脱ぎ捨て、バスルームの中へ入っていった。

 「♪いつも何か忘れ物してるような〜」
 「ガチャ」
 「ちょっと、何で入ってくるの〜」
 バスルームのドアが開き、タオルで股間を隠した彷徨が入ってきた。鼻歌まじりにシャワーを浴びていた未夢があわてて胸を両手で隠す。
 「どうしたんだ?」
 「……恥ずかしい……」
 「恥ずかしい?」
 「だって……お風呂入っているとこ見られるのって恥ずかしいよ〜」
 (何をいまさら…)
 何度も未夢と裸で抱き合い、身体を重ね合った彷徨にとってはその言葉は意外であった。
 「ま、いいか。未夢、背中洗ってやるよ」
 「いいよ。もう洗ったから」
 急いで身体をシャワーで洗い流した未夢は、そそくさと湯船の中に入っていった。

 「入るぞ」
 身体を洗った彷徨は湯船に入り、未夢の隣に腰を下ろした。直径2bはあろうかという円形の湯船は二人が足を伸ばして入るには十分すぎる広さであった。
 「あ、あたし上がるね」
 「入ったばっかりだろ。ちゃんと暖まれよ」
 「……うん」
 「…………」
 無言のまま湯船に浸かっている未夢と彷徨。
 (え〜ん、恥ずかしいよ〜) 
 入浴という極めてプライベイトな行為を、たとえ身体を重ね合った彷徨とはいえ、見られること、そして一緒に入るということは未夢にとってはかなり恥ずかしいことであった。
 「………」
 それとは対照的に、部屋に入った時から臨戦体制であった彷徨。何度も見ているとはいえ、隣にいる生まれたままの未夢の姿は彷徨の欲情を激しく刺激する。
 (ゴクリ)
 もはや限界である。彷徨は未夢の肩に腕を回すと身体を引き寄せた。
 「あっ…」
 彷徨の唇が未夢の唇に重なる。一緒にお風呂に入ることを恥ずかしがっていた未夢だったが、こうなると話は別である。未夢の腕が彷徨の身体に回り、激しく舌を絡めていった。
 「はぁ…はぁ…あっ……あっ……」
 彷徨の手が控えめに膨らんだ未夢の乳房を優しく揉み、乳首を唇でついばむ。ピンク色の小粒な乳首がひょこんと頭をもたげ、鼻にかかった愛らしい喘ぎ声が唇から漏れ始める。
 「彷徨……そこ……うくっ……あぁ〜ん」
 未夢の言葉に応えるかのように、彷徨の手が未夢の下半身に伸び、うっすらと茂った草むらの下にある花園を指で刺激する。彷徨の指にお湯とは違う温かい液体が絡みつく。
 「あっ…あっ…いい……くぅふ〜ん……」
 クリトリスを嬲られている未夢は顔を仰け反らせ快楽の声を上げ続ける。そんな未夢の蜜壺の中に彷徨の指が忍び込む。
 「あん…くふぅ……いい……」
 潤った蜜壺を彷徨の指が中を激しくかき回す。彷徨にしがみつき、喘ぎ続けていた未夢の手が、自然に彷徨の硬くなったペニスを握り、ゆっくりとそれをしごき始める。
 
 「いいか?」
 こくりとうなずいた未夢を湯船の縁に掴まらせた彷徨はヒップを掴んだ。
 「こんな格好恥ずかしいよ〜」
 バックからインサートした彷徨は未夢の身体を抱え、そのまま湯船の中に腰を下ろすと、未夢の両足を大きく広げた。
 「そうか? ほら、見てみろよ」
 悪戯っぽく微笑んだ彷徨が指さす方向には彷徨のペニスをくわえ込んだ未夢の蜜壺の姿があった。
 (彷徨のエッチ…)
 あわてて視線を反らした未夢の蜜壺を彷徨は下から突き上げる。
 「やだ……そんなにされたら……壊れちゃうよ〜」
 未夢の身体を突き上げながら、彷徨の手は未夢の乳房を揉みしだき、クリトリスを刺激する。
 「いいよ……彷徨……いつもより……気持ち……いい」
 西遠寺では決してすることのできない、何も気にせずに心の底から楽しめるセックス。二人は額に大粒の汗を浮かべながら快楽をむさぼり続けた。バチャバチャというお湯の音とエコーのかかった未夢の喘ぎ声がバスルームの中に響き渡った。
 「いくぞ」
 限界が近くなってきた彷徨は、繋がったままの体勢で未夢を立たせると壁に手を突かせた。そして両手でヒップを掴むと、激しく蜜壺を突き始めた。未夢の蜜壺が彷徨のペニスをギュギュときつく締め始める。
 「はぁ…はぁ……んくっ……来る……彷徨……来るよ〜……
 未夢の唇が頂点が近くなったことを告げる。それに合わせて彷徨もスパートをかける。
 「ダメ……来ちゃう……彷徨……来ちゃうよ……ふぁぁ〜〜〜ん」
 背中を仰け反らせ、一気に頂点に達した未夢の背中に彷徨は熱いエキスを放出した。

 「はぁ…はぁ………ぷしゅ〜」
 「おい、大丈夫か」
 頂点に達した未夢はそのまま湯船の中にへたり込んだ。
 「ちょっとのぼせただけ。心配しないで。大丈夫なのさぁ〜」
 「本当か?」
 「うん」
 ゆで蛸のようになった真っ赤な顔をほころばせて未夢は言った。
 「あ〜ん、背中ベトベトだよ。彷徨、そこどいてよ。身体洗うから」
 「背中流してやろうか」
 「結構ですぅ。どうせエッチなことしようと思ってるんでしょ。それよりお風呂のお湯抜いてね。後で入るんだから」
 「ちぇっ」
 図星を突かれた彷徨は言われるままに浴槽のお湯を抜いた。そして、さ〜っとシャワーで汗を流すと、とぼとぼとバスルームから出ていった。


 「お待たせ〜」
 汗とザーメンで汚れた身体をシャワーで洗い流した未夢がバスルームから戻ってきた。 「彷徨、それ何?」
 「これか? 冷蔵庫の上にあったんだ」
 ベッドに座った彷徨がいじっていたのはピンクローターである。おそらく二人の前にこの部屋を使ったカップルが忘れていったものであろう。
 「何に使うんだろうね?」
 彷徨の横に座り、ピンクローターを手にした未夢は興味深げにそれをいじっていた。まだ純真な中学生である二人がこれが何であるのか。そして何に使うのか、もちろん知るよしもない。
 「これ、スイッチかな? きゃっ、彷徨、動いたよ〜」
 スイッチが入り、振動を始めたピンクローターを未夢はあわてて放り投げた。
 「マッサージ器なのか? 未夢、そこに寝そべってみろよ」
 「こう?」
 ピンクローターを拾い上げた彷徨はうつぶせになった未夢の肩にそれを当ててみた。
 「ちょっと、何するのさぁ〜」
 「マッサージ」
 「そんなことしなくていいよ〜」
 「お客さん、肩こってますねぇ」
 普段は見せることのないおふざけたモードの彷徨。おそらく心を許した未夢の前だからこういうこともできるのだろう。
 「肩なんかこってません!」
 「あ、こるほど胸ないか」
 「む〜、失礼ですなぁ〜」
 「こんどは腰を…」
 「ちょっと、もういいよ……あっ」
 身体に巻いてあったバスタオルが剥ぎ取られ、ピンクローターが背中に触れた時である。未夢の身体がピクッと反応した。
 「はぁ…はぁ…はぁ……」
 未夢の変化に気付いた彷徨は背中に当てたピンクローターを上から下へ、下から上へと動かしていった。未夢の呼吸がだんだん荒くなり、白い肌が再びピンク色に染まってきた。
 (こんなところも感じるんだ)
 まだ経験が乏しい彷徨にとって、背中が性感帯というのは思いも寄らなかったことであった。
 (背中でこうなるのなら…ここはどうかな?)
 「何するの、やめて……ひゃ〜ん」
 未夢の身体を強引にひっくり返した彷徨は未夢の両足を大きく広げるとクリトリスにピンクローターを当ててみた。
 「やだ、そんなことしないでよ〜……あぅ〜ん…だめ〜」
 閉じようする未夢の両足を強引に開いた彷徨は、ピンクローターをクリトリスに当て続ける。未夢の蜜壺がピクピクし始め、トロ〜リと愛液を流し始めた。
 (こんなのいやだよ〜。でも……でも……気持ちいいよ〜)
  暖かみもなく、ただ単に振動を与え続けるだけのローターの感触に未夢は嫌悪感を覚えていた。だが、身体は激しく反応しているのだった。
 「ひゃ〜ん…そんな…あっあっ……ダメ……変になっちゃう……壊れちゃうよ〜」
 (すげぇ……)
 シーツを掴み、背中を仰け反らせ、あられもない声を上げ続ける未夢。いつもとは違う未夢の乱れっぷりを目の当たりにして驚いている彷徨がピンクローターを蜜壺に入れようとした時である。
 「……彷徨……もうやめて……」
 荒い息の中、潤んだ瞳の未夢が消え入りそうな声で懇願する。
 「一人は……いや。お願い……一緒に……」
 「分かった」
 ピンクローターのスイッチを切った彷徨は用意しておいたコンドームを手にした。
 「そのままでいいよ」
 「いいのか?」
 「うん……そのままでして欲しいの」
 「分かった」
 すでに戦闘状態になっていたペニスを彷徨は未夢の蜜壺の中に挿入していった。
 「彷徨……」
 彷徨のペニスを受け入れた未夢は彷徨の身体にしがみつくと自分から唇を重ねていった。
 「…あったかいね…」
 「?」
 「ううん、なんでもない。彷徨、もう少しこのままでいたいなぁ〜」
 「えっ? あぁ、いいぞ」
 「ありがとう」
 未夢は寂しかった。目の前に彷徨がいるのに自分だけがイッてしまう。自分一人が取り残されてしまうような感じがいやだったのだ。彷徨を近くに感じたい。彷徨と一緒にイキたい。彷徨にしがみついている未夢はそう思っていた。
 「……動いていいよ」
 彷徨のペニスが未夢の蜜壺をゆっくりと出入りし始める。
 (やっぱり彷徨のおちんちんの方がいいよ〜)
 ピンクローターとは違い、暖かみのある彷徨のペニス。少々ぎこちないところはあるけど、それでも機械的なピンクローターの動きより心のこもった彷徨の動きの方が未夢は好きだった。
 「もっと……彷徨……もっと……さっきより……気持ちよくなりたいの」
 いつもより大胆になった未夢の太股を抱え、激しいピストン運動を続ける彷徨の身体に未夢が再びしがみつく。
 「おい、このままだと…」
 「いいよ」
 「いいよって…」
 「今日は大丈夫な日だから……」
 「未夢……」
 (だったら早く言えよな〜。そしたらさっきだって…)
 そう思いつつも口には出せない彷徨は、バスルームでの恨み(笑)を込めて未夢の蜜壺を激しく突いた。
 「彷徨…好き……だから……一緒に……あぁ〜ん」
 「未夢…未夢…」
 「来て……彷徨……一緒に……来る……来ちゃう……ひゃ〜〜〜〜ん」
 彷徨にしがみついたまま絶頂に達した未夢の蜜壺の中に彷徨は熱いエキスを放出した。
 「はぁ…はぁ…はぁ……彷徨…」
 「何だ?」
 「彷徨のぶわっかぁ〜〜〜〜〜」
 ベッドに横たわっていた未夢がいきなり起きあがり、スヌ●ピーの絵のついた大きな枕を彷徨の顔面に投げつけた。
 「痛ぇなぁ。何すんだよ」
 「エッチ、スケベ、変態。あんなことするなんて、もう信じらんな〜い」
 「……悪かったよ」
 「………」
 しばらくの間、涙を浮かべたまま黙りこくっていた未夢がようやく口を開いた。
 「彷徨…」
 「何だよ」
 「今度はちゃんとしてね」


 「遅くなりましたわ……。あっ、あそこにいるのは彷徨くんじゃあ〜りませんか」
 「誰もいないよね」
 「あぁ……まずい、花小町だ」
 あれから二回も愛情あふれるセックスを楽しんだ未夢と彷徨がホテルを出ようとした時である。二人の視界に猛ダッシュでこちらに向ってくるクリスの姿が飛び込んできた。
 「はぁ…はぁ…あら、彷徨くんに未夢ちゃん」
 慌ててホテルの中に戻ろうとしたが無駄であった。二人の目の前に息を荒げたクリスが現れた。
 「や、やぁ、花小町」
 「こ、こんにちは。クリスちゃん」
 「お二人で何をなさっていたのですか?」
 「いや、それは……」
 もちろんクリスに本当のことは言えるわけはない。
 「ここは……ホテル…」
 「あのね、クリスちゃん…」
 「……ホテルから二人仲良く出てきた彷徨くんと未夢ちゃん……。『未夢、お前のためにホテルのスイートルームを用意したよ』『うれしい、ちゃんとあたしの誕生日のこと覚えていてくれたのね』」
 毎度おなじみのクリスの妄想が始まった。
 「こうして二人は手に手を取ってホテルに入ると、スイートルームであま〜いお汁粉を作って、口うつしで……許せませんわ……」
 「違うよ、クリスちゃん。あたしと彷徨は……お祓い、そうお祓いに来たの」
 「そうそう、ここのホテルの支配人と親父が大の親友でさぁ。定期的にお祓いに行くんだけど、親父が出かけて今日はオレが代わりに来たんだ」
 「あら、そうですの」
 あわてて取り繕う二人の言葉に、とりあえずクリスは納得の表情を見せた。
 「それにしては彷徨くんは袈裟を着ていらっしゃらないですし、それに…くんかくんか…彷徨くんと未夢ちゃんから同じ香りがしますわ。いつもは違うシャンプーを使ってらっしゃるのに……やっぱり二人はお汁粉を口移しで食べたのですね……」
 「ひぇ〜〜〜、彷徨どうしよう」
 妄想&暴走モードのクリスを説得するのに小一時間かかった二人が西遠寺にたどりついたのは夕日が西の空を染め始めた時であった。

(終)

 「おかえりなさいですぅ〜」
 「ただいま。はぁ〜、今日は疲れたなぁ〜」
 「あの〜」
 「どうしたの、ワンニャー?」
 「何かお忘れではないでしょうか?」
 「あ〜〜〜」
 「どうした?」
 「おみやげのみたらしだんご買ってくるの忘れてたよ〜。ごめんね、ワンニャー」
 「ひどいですぅ。忘れるなんてひどいですぅ…」
 
 (完)


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